2016年8月22日月曜日

進化した世界で,新たに生じた面倒さ

~論文の図に関して~

PEPS総編集長の井龍です.

数年前,現在の所属先に移動するに際して,部屋のマップケースの中身を整理していたところ,デカドライとスクリーントーンが大量に出てきました.博士課程在学時に買い求めたものを約四半世紀も後生大事にしまっていました.

今の院生や学生には異次元の話と思われることは必至ですが,二十数年前ごろまでは,図はハンドメイドで,レタリングにはデカドライ(文字シール)を,模様にはスクリーントーン(模様が印刷されたシールのようなもの)を使っていました.デカドライもスクリーントーンも一通り揃えると,それなりの値段となり,貧乏院生には大きな負担でした.校費や科研費で購入している教員を羨ましいというより,恨めしく思っていました.しかし,パソコンで描画用ソフトウェアーが使えるようになると,このような状況は終わりました.それは,私の周辺では,1990年頃だったと記憶しています.

さて,PEPSのウリの一つにRapid publicationがあります.そのため,事務局は,個々の原稿の査読から出版までの状況を,常時,ウォッチしており,1週間に1度(月曜日の夕方に),総編集長および6名のサイエンス・セクション編集長にレポートが配信されます.しかし,このような査読の迅速化に対する取り組みも,SpringerOpenの制作部門で原稿が滞ることがあり,善処を求めて来たところです.かなり改善されては来たのですが,問題がなくなった訳ではありません.

制作部門での遅れが生じる原因をサーチしてきたのですが,その一つとして,原稿の図に問題がある場合,制作が遅れ気味であることが分かってきました.そこで,Rapid publicationのために,以下をお願いしたいと思います.以下は,他のジャーナルに投稿される場合にも,当てはまると思います.

1. 図の解像度は300dpi
現在,ジャーナルの冊子体の図や写真の解像度は,300dpiに設定されています.ですから,300dpiより解像度が低いと不鮮明になってしまいます.一方,300dpi以上の解像度にしても意味はありません.300dpiで作成しておけば問題ありません.

2. EPS形式で保存したファイルをアップロード
イラストレーター等の広く使われている描画用ソフトウェアーで作図した場合,それらはベクトル画像となっています.制作部門に送られた図が,そのまま使えれば問題ないのですが,制作部門で図を加工する必要が生じた場合や著者校正で修正を求める場合,予めベクトル画像が送付されていれば,制作部門での作業が迅速に進みます.よって,投稿時には,図はEPS(Encapsulated PostScript)形式で保存したファイルをアップロードすることを勧めます.

3. フォントはアウトライン化
文字情報であるフォント・ファイルの搭載状況は,OSや同じOSであっても,バージョン等により異なります.そのため,自分が作成した図のファイルを別環境下で開いた場合,同じフォントがなければ,文字化けや別書体による置換が起きてしまいます.文字を図形化してしまい,どんな環境でもフォントが作成者の意図の通りに見えるようにするというのが,アウトライン化です.文字化けは,ギリシャ文字で頻発しますので,特に注意が必要です.

その他,数値とSIユニットの間にはスペースを入れる,緯度・経度を表記する際には,北緯と東経を示すNとEを記入する(少なくとも1箇所)等にもご注意ください.

少し詳しく書きましたが,それぞれの注意事項について,何故,そのような注意が必要なのかを理解していただければと思います.それにしても,デカドライとスクリーントーンを使って図を描いていた頃,こんな便利な時代がくるとは想像すらしていませんでした.この先,どのような進化が訪れるのかが楽しみです.


ちなみに,デカドライはすでに生産停止となり,未使用品には平均して3000円以上の値段がついているそうです.しまった!
PEPS総編集長 / 東北大学大学院 理学研究科 地学専攻 井龍康文