2016年2月17日水曜日

査読者の心構え

PEPS大気水圏科学セクション編集長の佐藤正樹です。

1月21日のWileyのブログサイトに、「Wileyが査読に関するオンライン調査の結果を発表 / 査読者に対するインセンティブやトレーニングのあり方に重要な示唆」という記事1)が掲載されました。PEPSでも査読者にインセンティブを持たせるための方策を議論しているので、参考になりました。

査読者としてのインセンティブは何でしょうか。金銭的な報酬ではないでしょう。自分のコメントが適切に著者の論文の改善に役立つこと、エディターにも評価されること、査読者へのフィードバックがあることが査読者にとってうれしいことではないでしょうか。最新の研究に一番早く触れることができることも査読者のメリットです。若い方には、査読回数が業績としてカウントされるとより積極的に査読に関わることができるかもしれません。実際、自分のCVに、査読の回数を書き込む方もいらっしゃいます。ジャーナルからofficial な証明書や感謝状を出してもよいかもしれません。学会によっては、優秀な査読者に賞を授与することもあります。(優秀な査読者=断らずに何度でも引き受けてくれる査読者でありますが、建設的なコメントを的確に返してくださる方が評価されます。)

さて、Wileyの記事1)にもありますが、査読のためのトレーニングを今後さらに受けることを希望される方が多いようです。JpGUやAGUでも講習会を行っていますので、機会があればぜひご参加ください2)。また、多くのジャーナルでは、査読者へのガイドライン3)4)を公表していますので、ぜひ一読ください。このブログでは、私見になりますが、いくつか査読者の心構えをあげておきましょう。

査読は建設的に:著者が具体的に対応できるようにコメントするべきです。また、最近のNatureの記事5)6)の紹介がありましたが、「査読者がそれほど必要ではない修正を要求するのをやめること」を多くの方が要望しているようです。査読者も論文を出版するまでに時間の短縮に協力すべきでしょう。特に若い方に他者に寛容でないコメントをする場合が少なからず見受けられます。査読の際には、攻撃的にならないように心がけて欲しいと思います。特に、自分の論文が引用されていないからといって、批判してはいけません。シニアな方でも、他のグループの論文に必ず攻撃的になる人がいますが、業界で嫌われます。

2度目の査読の際に、新しい点を指摘しない:最初の査読の際に指摘しなかったことを、2度目以降の査読で指摘しないように。後出しジャンケンといわれます。改訂のたびに新しい指摘が出てくると、著者は先が見えない憂鬱な気分になります。こういう場合には、著者はエディターに訴えてもよいです。ただし、改訂の際に、大幅に変更になった場合にはこの限りではありません。

What’s new:ジャーナルにもよりますが、通常「何が科学的に新しいか」が評価基準になります。枝葉にとらわれずに、既存の研究に比べて何が新しいのかが明瞭かどうかでMajor revision /Minor revision /Reject の判断基準とすべきでしょう。またその新しさの程度は、ジャーナルによって要求されるレベルが異なります。Nature/Science級のジャーナルと一般的な学会誌には判断基準が異なることはわかると思います。新しさの程度(strong - weak)の基準がそれぞれのジャーナルによって異なります。PEPSの場合には、中程度といったところでしょうか。

査読の依頼は断らない:分野が明らかに異なる場合を除いて、査読の依頼は基本的に断るべきではありません。自分の論文一編に対して2名以上の査読者が寄与していることを考えるのであれば、査読者として貢献しなければならないことがおわかりでしょう。より適切な査読者が身近にいる場合には、お断りの際にコメントをつけて推薦をすることでもよいです。一方で、最近乱立する商業ジャーナルからの査読の依頼は要注意です。編集者やエディターが知らない人の場合には特にそうです。システムがこなれてない場合があり、せっかく用意した査読コメントが、締切を一日過ぎただけで受け取ってもらえなかったという話を聞いたことがあります。

また、必ずしも一般的かどうかわかりませんが、私は多くの場合Major revisionとします。あまりRejectしませんし、あまりMinor revisionとしません。せっかく査読するので、著者にはコメントを真摯に受け止めてもらいたいものです。Rejectとすると反映する機会が失われるし、Minor revisionとするとあまり深刻に改訂してくれないかもしれないと考えるからです。箸にも棒にかからないひどい論文も確かにありますが、そういった論文はエディターで判断して査読にまわすべきではないでしょう。こういった査読のノウハウはそれぞれの人に蓄積があるので、若い人は機会をみつけてシニアな方にいろいろときかれるとよいと思います。

参考情報:
1) Wileyが査読に関するオンライン調査の結果を発表 / 査読者に対するインセンティブやトレーニングのあり方に重要な示唆(投稿日: 2016年1月21日)


2) AGU Workshops for Authors and Reviewers(投稿日: 2016年2月2日)


3) A Quick Guide to Writing a Solid Peer Review, EOS, 92, 233-240 (2011)


4) 米国気象学会:Reviewer Guidelines for AMS Journals


5) 国立国会図書館:論文を出版するまでに時間がかかりすぎる?(投稿日 2016年2月16日 )


6) Does it take too long to publish research?, Nature, 530, 148-151 (2016) (投稿日2016年2月10日)
PEPS大気水圏科学セクション編集長 / 東京大学 大気海洋研究所 佐藤 正樹

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